「ちょっと・・・?何時まで寝てるつもり?」
布団の端をガシッとしっかり掴み「まだ寝る〜」と駄々を捏ねるガキの様な23歳、独身。
中学校の保健医をやっているこの男、はたけカカシを必死に起こそうとしている
2人の朝はいつもお決まりでこの情景から始まっていた。
 カカシと出会ってから1年半。周りから見ればおそらくお隣さんではなく、半同居中の歳の差カップルに見られている事だろう。
でも、実際付き合っているわけは無く、只の恩人と今日から中学2年生になる少女といった関係だ。
まぁ、に取っては『只の恩人』なのだが、カカシに取っては少し違うらしい。
『気になる存在』なのだ。
それが、恋愛感情なのかは確証が持てず、只の同情心やなんとなく自分に似ていると感じている事から気になるのか、はたまた妹を可愛がるお兄ちゃんといった感じなのかは全く分かっていない。
「もぉぉ・・・しょーがない!」
カカシを起こす事を諦め、朝食の準備に取り掛かる。

しばらくして、味噌汁のいい香りがカカシの鼻をかすめると、スッと足音を立てずにベットから降りる。
と、にピトリとくっつき後ろから抱きついた。
「おはよ〜ぅ・・・」
寝ぼけた声で言うカカシに鳩尾を喰らわすとはニッコリと微笑み「おはよう」と返す。
「あ、朝から強烈ね。お前。」
苦笑交じりに腹を抑えながら言うカカシに相変わらず冷たい笑みを返しながらはカカシを冷たくあしらうのだった。
今のに出会った頃のような寂しいような苦しいような色の無い眼していない。
の元からの性格か、又は作り上げてきた性格かは知らないがよく言えば「活気のある子」悪く言えば「男勝りな子」に見えるだろう。
しかしカカシに言わせれば「弱いところを見せようとしない無理をした子」でしかないのだ。
「あーぁ。今日から学校も憂鬱な場所と化するのね。」
ため息と共に吐き出されたその台詞にカカシは眉をひそめ「何で?」と訊く。
「だって・・・カカシ・・・今日から忍ノ里の保健の先生なんでしょ?
しかも、誰かを脅してまで・・・・そんなに忍ノ里がイイ学校だとは思えないけど?」
そう。カカシはの言う通り、流石に脅してまではいないがの通う忍ノ里中学校の新任の先生として来るのだ。
「あのねぇ。確かに俺は出来る事なら忍ノ里で仕事したいとは言ったよ?
でもそれはが居るからでしょう?
もっと・・・こぅ、俺の愛をさぁ・・・受け止める気は無いわけ?」
「無い」
即答するに思わず何も言えなくなる。が、ここはその台詞を無理やり無視して次の言葉を捜す。
「よし、じゃあここは俺が譲歩して愛は受け取ってくれなくてもいい。
だけど、そろそろ信じる気無い?」
「何を?」
「俺がの事を好きだって事を・・・だよ。
何回も言ってるでしょう?そろそろ信じて・・・・・」
「勝手に言ってろ」
の冷ややかな笑顔がカカシにダメージを喰らわす。
いつもの事。
それが、もしかしたら照れ隠しで〜とかカモ?って思えてたのはがカカシに心開いてから約半年まで。
それ以上は絶対に違う。としか思えない冷たい態度。
慣れたくなくても慣れてしまった。
『構うな』と言われると『構いたくなる』人間の習性。
それにモノの見事ハマっているカカシ。
押して駄目なら引いてみろ。その作戦に乗らない人間の習性を無視したの態度。
(やっぱり嫌われてるのかねぇ〜)
そう思わずには居られなかった。
「ね。包帯巻いて?」
カカシは眉から頬にかけて縦一直線に傷を持っている。
それを隠す為に外へ出る時は包帯で隠しているのだ。
「何甘えてるのよ?」
そう言いながらもカカシの手から包帯を奪い取る
これだから好かれているのか嫌われているのか分からないのだ。
「別に?甘えては居ないけど・・・・」
「なら自分で巻けば?」
「・・・・・そう言いながら巻いてくれるのはなーんでかな〜?」
一度訊いてみたかったモノを訊いて見た。
答えはどんなものにしろ冷たいものだと分かってはいた。
けど、返事が無いのだ。
「なんで・・・って・・・・」
困る
「何で?」
尚も訊くカカシ。
返って来たのは返事ではなく軽いデコピンだった。
「下らん事を訊くな。大体アンタが巻けって言ってきたのよ?」
「ごもっとも・・・・」
「じゃあ私も訊くわ。
『なんで包帯巻くのよ?本当は、何を隠したいの?』」
「・・・・・・・」
答えられないカカシを見ては冷笑する。
「ほら、答えられないでしょ?」
「あのねぇ〜ズルくない?」
『何で』の質問はいいとして『何を』の質問は結構キツイ。
カカシはあまり、というか全然。過去の事を話はしない。
過去というより、自分の事ですら全く話さないのだ。
(大体何で『何を』の質問を今する必要があるんだ・・・?)
「包帯巻くのは怪しまれるから。それしかないでしょ?」
と、苦笑するカカシに
「巻いてるほうが怪しい」
と、ツッコむ
「理由は?」
「いかにも・・・なのよ。」
御尤もな意見にカカシは言葉を失った。
(だから『何を』・・・ね・・・。)
の先ほどの質問にも合点がいき、
「じゃあ外した方がいいのか?」
と巻かれた包帯を指差して言う。
「そうね。それに邪魔じゃない?包帯・・・」
「ん〜それほど?だって左目あんまり見えてないから・・・」
「・・・・それ、初耳。」
「色違う理由ってソコにあったりしてね?」
「・・・・それは嘘ね。ハイ、学校行かないとやばい!と、言う事で行って来ます。」
はそう言うと綺麗に巻いた包帯を引っ張り外し、そのまま靴を履いて家から出ようとする。
カカシは包帯を適当に救急箱へしまうと
「何?一緒に行かないの?」
と、訊いてくる。
「誰が・・・」
はそう言うとパタンと扉を閉めてしまった・

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は学校で先生方にも生徒達にも指示を得た優等生で通っていた。
それを、簡単に見抜けたカカシは同じく、偶然にも今日から同じ新任として働くことになっていたハヤテと体育館の隅でを観察してやる気なさげに会話らしくない会話を繰り広げていた。
「意外・・・ですね・・・。」
ハヤテは相変わらず咳き込みながら言う。
「そうだね〜・・・と、言うか何が『学校も』だよ。
元から憂鬱な場所だったんじゃないのか?アレは・・・・」
ブツブツと何やら小さな声で言うカカシにハヤテは一言「親バカですか・・・アンタは・・・」と聞こえない程度にツッコミを入れる。
無駄に大きな壁を作り、『大和撫子』と言っても過言ではない様なを見て吐き気を覚えるカカシ。
別に、そうゆうが『気持ち悪い』とかそうゆうのではない。
何と言ったらいいか・・・・
「居た堪れないですね・・・・」
「・・・・・」
その言葉が一番シックリくるのだろうか・・・?
 はカカシに心を開いている。とは言っても前に『他人よりは』がつく。
本当に。は心を開いていないのと同じなのだ。
『壁』で例えるなら
カカシの場合、透明なガラスの薄い壁。
それでも叩き割る事なんて出来ないガラスの壁。
目の前に見えるのに触れる事が出来ない。そんな感じなのだ。
そして、ハヤテを踏まえた他人の場合、煉瓦造りの高い壁。
大声を出せば声が届かないでもないが、姿は見えない。
どちらにしろ、崩す事が困難な壁を作り出していた。
「あの〜・・・」
後ろからしなやかな声を発したのは先程まで見すぎと言っていいほど見ていた少女、だった。
相変わらずの二重人格性に違和感を感じつつカカシは「何でしょう?」とニッコリ微笑む。
は軽く辺りを見渡してカカシの耳元で
「さっきから何か用?」と、訊く。
見ていたのを見られていたらしい。
「いやいや。別に〜・・・」
「別にって事は無いでしょう?」
「・・・・そうだね。言うなれば・・・居心地、悪そうだね?」
ククク・・・と苦笑しながら苛めるように言うカカシにカァ・・・っと怒りの為顔を赤くする。
「ほっといてよ・・・!これだから・・・これだから憂鬱になるって言ったのよ・・・!」
(あぁ、成る程!)
と、ポンッと手を叩いて理解を表すカカシ。
「助けてあげるのに。」
ニッコリ微笑んでアッサリそんな事を言うカカシには他の人にバレないように今日2度目の鳩尾を喰らわす。
「今度そんな嘘言ったら・・・・」
のその台詞を遮る為に、カカシはの口を自分の手で覆うと
「何してもいいけど・・・ホント、人の事信じてみたら?」とニッコリ微笑む。
「余計なお世話です。」
は一言そう言うとカカシをキッと睨みつける。
「あんまり普通に構ってると後で痛い目みますよ・・・・?ゴホッ。」
ハヤテは一言忠告するとニッコリと冷笑した。

ちゃん・・・」
始業式が終わり、教室へと向かう渡り廊下では親友の声に呼び止められた。
「ヒナタちゃん!」
パッと明るい笑顔を見せると、はヒナタの方へと駆け寄った。
ヒナタは中学で知り合い、今ではの過去を知る親友だ。
「ねぇ、新任教師の中にいた『はたけカカシ』って保健の先生・・・ちゃんを助けてくれた人よね?」
紹介があってからずっと気になっていたらしく確認しに来たらしい。
はコクリと頷くと「今度改めて紹介するわ・・・」と言う。
ヒナタはの少し困った表情を見てクスクス笑うと「うん」と頷いた。

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のクラスの担任は新任の先生で鼻上に横一文字に傷があるおっとりとした人だった。
見た目からして人が良さそうであり、一般的な常識人といった感じだ。
ただ、きっと悪い所を上げるのなら『悪い事をそのまま悪と決め付けてしまう』所なのだろうなぁ。と一発で見抜くだった。
イルカはどうやら他の先生からは頼りになると聞かされていたのだろう。
帰り際、イルカはを呼び止めた。
「あの・・・お願いがあるんですけど・・・」
丁寧な口調。
年上も年下も敬う気持ちがあるのがよく分かる。
「はい。なんでしょう?」
もつられて人の良い笑顔をイルカに向ける。
「あの・・・出来ればなのですが・・・学年代表を受持って頂きたいと生徒会指導の先生が仰っていまして・・・引き受けてくれるかどうか訊いてくれないかと・・・・」
は別段迷う事も無く「いいですよ。」と笑顔を見せる。

頼りにされる事はとてもうれしい事だし、別にそれに対して因縁つけて来られるような人でもない。
それにそういった仕事が嫌いなのではなく寧ろ好きな事なのでチャンスさえあれば全てモノにする。
『イイコチャンブッテル』なんて事言われない『元からそうなのだ』という人間であれ。と作ってきた人格に『何でも言われれば引き受けてしまう』と思われないように『断る事も出来る人間』だと見せ付けてきた1年間。
壁を作るのにはとても良い環境の中に居る。とはハッキリと思っていた。
それを傍目で分かる人間は4人。
良いところから嫌なところまで見られているカカシと、ハヤテ、そしてヒナタ。
あと一人は、別に対した関わり合いは無いのだが今回ヒナタのクラスの担任をしている紅先生には分かってしまうらしい。
本人は「そういうのは個人個人を確り見ていれば分かる事よ」と微笑を浮かべ言っていた。

「じゃあ・・・生徒会指導の先生に有無を伝えて来てくれないか・・・?」
「はい・・・。」
は薄っすらと笑みを浮かべヒナタを引き連れ職員室へと向かった。

職員室の扉に張られてある先生方の座席表に目を通し位置を把握するとひょいっと中を覗いた。
(何故・・・保健の先生って扉の目の前の席なんだろう・・・)
否、理由などは大体分かるし関係ない。
ただ、職員室に居る場合、この男を一番初めに見なくてはならないのか。と思うとウンザリするのだ。
「なーにやってるの?」
当たり前のようにニコニコといつもと何ら変わらぬ笑顔で訊くカカシに引きつった笑顔で
「ガイ先生に用があるの・・・」
と答えるとプイッと顔を反らす。
何故だか分からないが恥ずかしい気がして目を見れない。
「んー・・・と、呼んで来ようか?」
カカシはそんなの気持ちを察したが、別に変化を見せれば余計にどう対応していいのか分からなくなるだろう。と思い普通に接してやる。
が、はどうも学校でのカカシに馴染めないようで「オネガイシマス・・・」と自然と敬語になる。
それがまた自分でも可笑しいと感じると深く考え込み、小さなパニックを起こしていた。
それが可愛くて、カカシはククク・・・と静かに笑うと椅子から立ち上がり、ガイを呼びに行った。

ガイはに気がつくと目を光らせ「で、どうなんだい?」と早急に答えを聞く。
「えぇ、お引き受けします。」
はカカシが見ている。と、言う事で作り笑いも出来ずにいた。
バレているとは思うけど、意識的に壁を作り出そうとしている自分を見せたいとは思わないのだ。
「そうか、そうか!」
ガイは嬉しそうに笑うとの肩をポンポンと叩く。
はアハハ・・・と愛想笑いをしつつガイの手を退けようとしたいのだが触れる事も嫌でどうする事も出来ないでいた。
「でさぁ、ガイ。どうでもいいけど俺のに触んないでくれる?」
アッサリと笑顔でカカシはそう言いのけガイの手を振り払ってやるとの頭に手を置く。
「スイマセン・・・カカシ先生。先生の方が近づかないで下さい。」
ニッコリと微笑むとは「それじゃあ失礼します」と、余所余所しい笑顔でその場を去って行った。
























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