― 文化祭 ― 「カカシ。ハヤテ先生居る?」 生徒たちを勝手に盛り上がらせておいて教師陣は偶に覗きに来て見たりするだけで後は職員室でお茶を啜っている。 「何〜?何か用?」 「アンタに用は無い。」 冷たく返された返事に(この間から構ってくれないな〜)などと自分の事を棚に上げて思うカカシの思考がすんなりと入ってくるから、はここ最近ずっと苛々していた。 イルカの事はなんとか誤魔化したようだ。と、言っても笑顔で脅し通しただけではないかとは思っている。 しかし、安心は出来ない。 最近カカシはハヤテに何も言っていないようだから相談の仕様もなくなっていたは直々に言う事に決めたのだった。 「委員会の仕事とかで忙しい?」 「・・・忙しくないのはアンタだけよ・・・」 「あっそ。」 「で?ハヤテ先生は・・・」 「前・・・」 「へ?」 カカシは難しいタイトルの本に目を通しながら言う。 (前?)と疑問をもちながら前を見るとイルカがこちらを伺っている様である。 「・・・バレバレ」 は呆れた表情で呟きながらカカシを見る。 もちろん。イルカに悟られない為である。 「まだの方が隠すこと出来るよね・・・」 カカシはククク・・・と喉の奥で笑いながら目線を本へと寄せている。 流し読み程度に読んでいるのかいないのか、ペラペラと一定の速さで捲られていく本にも思わず目を落として黙ってしまう。 「って言うか誤魔化したって言ってなかったっけ?」 「その場しのぎでね・・・」 (ダメじゃないそれ・・・) は呆れを溜息に乗せ職員室の中を見渡す。 「カカシ・・・ハヤテ先生は?」 は当初の目的を思い出したかのようにもう一度カカシに訊く。 「あぁ・・・校舎内見回ってるんじゃない?」 「いつ帰って来る?」 「知らない・・・」 はもう一度溜息を吐くとカカシの肩に手を置いて耳元でドスの効いた声を出す。 「そういう事は早く言え・・・これ以上怒らすと知らないからね本気でv」 「最近ピリピリしてるね。どうし・・・」 カカシの言葉は最後まで発せられる事は無く。 は無視してハヤテを探す。 「あ〜〜〜もぅ!最低、最悪!何なのよあれッ!」 はブツブツと言いながら人の合間を縫って歩く。 「職員室で待ってた方が良かったかな・・・?」 人込みを遠巻きに見ながら呟いてみるがやはりカカシの前でコソコソ呼び出したりなんかしたらそれこそ追及されて白状されそうだ。 「あ・・・っ!!」 反対側の校舎に見えるのはハヤテ。 その場所から向こう側の校舎へ回るには校舎の端へと向かって回り込むか一回下の階段へ降りて渡るかしかなかった。 少し考えて、は一度階段を下りハヤテの元へと向かう。 「ハヤテ先生っ!!」 大分離れた所から呼ぶ。 学校でのには考えられない行動にハヤテは驚いた表情を見せるがすぐに平静を取り戻してへと向く。 「どうかしたんですか?」 ゆっくりと訊かれては乱れた呼吸を整える。 「あの・・・ハヤテさん。聞いてますか?」 カカシから・・・なんて主語がいらないぐらいであろう。 ハヤテも持ちかけられる話がそれだという事を理解していたらしく人気の居ない方へと促す。 は黙ってハヤテの後ろを着いて行く。 急いて行ったはいいが何から話そうか・・・と頭の中で整理しながら・・・。 「で?何を聞いてないかと?」 ハヤテは文化祭で使用していない開き教室へとを連れ込み一番近くにあった椅子に座る。 はハヤテと向かい合うように椅子に座ると俯いたまま神妙に話し出す。 「イルカ先生に・・・・」 思ってもいなかった名前が出たのかはたまた何か心当たりがあってその名前に反応したのかは知らないがハヤテはガタンッと椅子を倒して立ち上がる。 「あの・・・?」 その行動理由が知りたくて言う前には尋ねた。 「あ・・・えぇ。スイマセン。彼に・・・何ですか?」 ハヤテは何かを誤魔化すように手で何もないと表示して椅子に座りなおす。 は「はぁ・・・」と納得しない表情で相槌するとゆっくりと口を開く。 「イルカ先生に・・・疑われてます。それもこれもカカシの所為で・・・」 「あの人また何かやったんですか・・・ゴホッ。」 ハヤテは呆れたように溜息をつき軽く握った手を口の前にあてを見やる。 「この間不意打ちでキスされました。校内で・・・。いつものカカシらしくないな・・・って思ってたら案の定です。交わせなくて・・・で、見られたかもしれないんですけどカカシが言うにはその場しのぎですが誤魔化したって・・・でも、うたがった視線受けましたよ。さっき・・・」 「でしょうね・・・」とハヤテは言うとまた溜息を吐く。 「何考えてるんだか分かりませんよ。もぅ、私にもね・・・でも、さんは分かってるんじゃないですか?」 「え・・・?」 「なんとなくでも・・・」 「なんとなく・・・ですか?」 は無理に考えを起こしてみるが思い当たる節は無い。 「まぁ、ゆっくり観察して見る事です。 あなたがカカシさんの近くに居るのはカカシさんが選んだからですよ・・・あなたなら自分を救ってくれると・・・さんが傍に居てくれる事を選んだんですよ。さんには言わないでしょうけどね」 ハヤテはクスクスと何かを思い出したのか笑い出す。 何の事だろう?と不思議な表情を見せていると、ハヤテは「もう少し経ったら教えます。今じゃ惜しいですしね。」とまた疑問になる言葉を投げかけた。 --------------------------- 疑問が残る中、はボーっと中庭で座っていた。 「なんか・・・どこも嫌かも・・・」 ボソッと呟いて見る。 誰も居ない。誰も聞いていない。そう思ったからこそ呟いたその言葉に反応する者が居た。 「なら・・・帰りましょうか。さま・・・」 バッと顔を上げるとそこには忘れていた使用人の・・・カブトの顔があった。 「嘘・・・なんで・・・何で居るの・・・?」 冷静になろうとする気持ちとは逆にだんだん心臓は早鐘のように鳴り、頭はズキズキする。 走馬灯を見ているかのように頭の中には忘れようと努力してきた事柄が波のように押し寄せる。 「くっ・・・」 は頭を片手で押さえその場でしゃがみ込みたい衝動を必死に押さえる。 (こんな所でそんな事したら絶対に捕まる・・・逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・ッ!!) 思う事は出来ても体中が恐怖に震え動く事すらままならない。 (カカシが・・・居る。職員室まで・・・行けばきっと・・・) 助かる。でも、今カカシに自分の事で迷惑を掛けるなんて事をしたらどうなるのだろう?という恐怖もあるのだ。 カブトは黙ってを見ていたが一歩足を踏み出す。 それに敏感に反応し、肩を振るわせたを見たカブトはクスッ・・・と小さく微笑んだ。 (余計な事考える前にまず行動・・・) は自分に言い聞かせるようにして足を踏み出す。 一歩が出てしまえば後はまだ楽な方でそのまま職員室へと駆け出した。 思わぬ展開にカブトはすぐには反応できなかったがの後を追う。 怖い、怖い、怖い、怖い ――――――――――― は必死に人の合間を縫うように走る。 カブトもそれに続く。 怖い、嫌だ、助けてっ!! は勢い良く職員室の扉を開けた。 バンッというすごい音に職員室に居た教師全員が会話を止めへと視線を注ぐ。 カカシも同様。 驚いて目を見開いている。 「・・・?どうし・・・」 言い終わらない内にはカカシの後ろへと隠れ込むようにすると何も見ないようにとカカシの背に顔を埋める。 「だから、どうしたの・・・??」 触れている部分からが何かに怯えているのが分かる。 案の定、後から現れたカブトの顔を見て、カカシは全てを悟った。 それはハヤテも同様。 顔を見たことは無いが多分そうなのだろう・・・と言う面で分かっているも含めれば紅、そしてガイも何が起こったのか把握できていた。 「お久しぶりです・・・はたけカカシさん。」 ニコッと初めて会った時と同じ、何か不快感を感じる笑顔を向けられる。 あの時は分からなかったけれど今は分かる。 この笑顔の不快さ・・・。 カカシはを庇うように手を後ろにやると 「えぇ、本当に・・・今日はどうされたんですか?」 と丁寧に言葉を返す。 内心は今すぐにでも追い返してやりたいところだがあえてそれは押さえなくてはいけない状況だった。 「えぇ、ちょっと・・・さまに用事がありまして」 苛々する。 この男のこの口調に、この笑顔に、そしてあえてハッキリとした用途を出さないこの言葉回しに・・・ 「その用事はもう済まされたんでしょう?ならば帰って下さい。は・・・アンタんトコのお嬢様は帰って欲しいそうですよ?」 冷戦。 そんな印象を思う二人に周りは何が何だか分からなくても息を飲む。 「外までお送りしましょうか?」 何も言い返して来ないカブトにカカシは更に付け加える。 「いえ・・・」と断わろうとした言葉を遮ってハヤテがフォローの口を挟む。 「遠慮なさらずに・・・私がお送りしますよ。カカシ先生は用事、おありでしょう?」 「・・・悪いね、ハヤテ。」 片手を上げてよろしく。と言ったカカシの言葉を聞き、ハヤテはカブトを促す。 その意味は「とっとと帰れ」。分かっているのはこの状況がなんなのか把握できている者ばかりであろう。 「では、失礼します・・・」 軽く会釈したカブトとハヤテを見送るとカカシはクルリとの方へと向き直り目線をあわす為にしゃがみ込んで俯くの顔を覗き込むと、カカシはの頬にそっと触れた。 それすらもビクリと体に反応を起こすを痛々しく思う。 カカシは、いつものが良く知るカカシに戻っていた。 「もう、行ったよ・・・大丈夫だからね?」 そんな言葉、気休めにもならない事は重々承知であった。 それでもコクリと頷く。 見ているこちらが苦しくて堪らない。 カカシは立ち上がると同時にを抱き上げる。 は黙ってカカシの首に抱きついてきた。 それはまるで甘えた子供のようにギュッとしがみ付く。 余程怖い思いをしたのだろう。と、カカシは小さな子をあやすようにポンポンと背を叩くと職員室を出た。 一方、カブトとハヤテはというと、校門前で「では、お気をつけて・・・」とハヤテが言うまで一言も言葉を交わすことは無かった。 「あまり、さんの前に現れないで下さいね・・・」 自分が言うのもなんだが、と思うがハヤテにとってもはとても大切な人だった。 カブトはしばらくの間黙ってハヤテを見つめていた。 「・・・貴方にそう言われる筋合いはありません。 それは、あのはたけさんも同様・・・あまり口出ししないで欲しい。 さまは・・・僕のものですよ。誰にも渡しはいたしません・・・それだけお伝え願いますか?」 ゾッとした眼をする。 (このカブトという男、違った意味で壊れているのではないだろうか・・・そして、もしかしたら本当は・・・) ハヤテは「分かりました。伝えておきますよ・・・」と返事をするとカブトに背を向けた。 「お願いします」 念押しするかのように聞こえたカブトの声を背で聞いた。 それだけでも何か得たいの知れない威圧感と恐怖がある。 (敵意の所為もあるがこれ程、いや、これ以上の恐怖をあの子は一人で・・・) そう思うと心が病む。 『同情』と言う形に似た『愛情』で・・・ |