ざぁぁぁぁぁ。
雨の音が頭の中で響く。
これは『夢』だろう・・・とぼんやり思いながらは暗闇の中で独り立っている様な感覚だった。
誰も居ない。
シン・・・と静まり返った闇。
光も無いはずなのに自分の姿だけがくっきり見えるがそれを不気味に思わない。
「嫌な夢・・・」
ポツリと小さく呟くと、はその場に腰を下ろす。
胡座をかいて目を瞑る。
変化の無い只の闇。
聞こえるのは雨の音。
「きっと現実に雨が降ってるのね・・・」
そう呟くとその声は只そこに一瞬響き、また無音の世界が広がる。
「あーぁ。寂しいなぁ・・・こうゆう時にカカシは傍にいないんだよねぇ・・・」
夢だって分かってるからすんなり出る言葉に抵抗は無い。
只、夢から引き戻された時に恥ずかしいと思うかもしれないが、夢の中ぐらいは素直でいたい。という気持ちが多少なりともあるのだろう。
「そういえば・・・私って実際、カカシの事好きなんだろうか・・・?」
うーん。と唸りながら首をかしげる
「好き」
「嫌い」
両方口に出して見るがシックリこない言葉につい、苛立ちを覚えたはハッキリとした答えを探すために色々と口にして見る。
「愛」「友情」「尊敬」「憧れ」「恩人」「安らぎ」「苦手」「先生」
次々と適当に口に出していく感情。全て当てはまらない。
特に最後の「先生」は自分にとって一番在り得ないものだった。
なんだろう・・・絶対居なくてはいけない存在。だという事はなんとなく感じている。
しかし・・・。

そこでフッ・・・と夢から現実世界へと引き戻された。

「・・・・っ。」
起きて、なんとなく覚えている夢の内容に赤面する。
「・・・どんな夢見てるのよ・・・っ。自分・・・」
顔を隠すように腕で覆い、自分の思考に何だか解らない悔しさを覚える。
「・・・・あれ?」
ふと気付いた。
此処はどこだろう?
と。
自分の家ではない。
しかも外は真っ暗。
夢の中でも頭に響いていた雨の音がする。
かなりの土砂降りである。
時計の針は8時10分を指していた。
段々とハッキリしてきた頭で一度部屋中を見渡す。
「・・・・カカシの部屋だ。」
気付いて、何故こんなところで転寝なんぞしているのだろう?と考えた。
そして、大分眼が覚めたところで自分が寝ていた場所に呆気にとられた。
「な、なんで・・・・?」
は畳の上で寝ていたのだが、その横。
好意的にかけられたであろう大きめの毛布。
そこで包まって寝息を立てるカカシ。
「つまり何か・・・?私が転寝してる横でこの変体は・・・」
ここぞvとばかりに添い寝していたらしい。
「カカ・・・っ!」
名を呼び、毛布をおもいっきり取り上げ怒鳴ろうとしただったが、あまりにも気持ち良さそうで嬉しそうな寝顔に何も言えなくなる。
「くっ・・・くそっ・・・。」
毛布をしっかりかけ直し、は舌打ちする。
どうしてこうも、カカシのふとした表情に弱いのか・・・。
包帯していてくれた方がまだ傍に居るのにはマシだったかも・・・と思えてくる。
自覚しかけている。と、言うよりは自覚して否定、或いはその事実を拒んでしまっている自分が情けなく思えてくる。
「まーた狸寝入りだったらブッ殺してやる・・・」
物騒な一言を呟いた後、はサラサラと綺麗な銀色の髪を流すように触れた。
「キレイ・・・よねぇ・・・うん。」
髪が。とか顔が。とかでなく、全体的な雰囲気と絵になるような状態。
は畳に肘をついてカカシの顔を覗き込む。
「やっぱキレイ・・・。」
今度は顔が。の意味で。
(嫌いじゃない。だからと言って好きでもない)
「絶対的な・・・存在。」
素直に言葉を紡ぎだせる夢でも出て来なかったピンッと来る答え。
無くては困る、絶対的なモノ。
の中のカカシは、まさにそれだと実感した。
 もう一度、カカシの髪に触れて見る。
すると、ようやくカカシも気付いたようで「ん・・・っ・・。」と小さく声を出して薄っすらと目を開いた。
その時点で夢見心地なゆったりとした甘い世界はの中で終局を告げ、いつもの素っ気無いジトッとした眼でカカシを軽く見下ろす。
「おはよう。」
一言一言ハッキリと言葉にするにカカシはヘニョっとした笑顔を見せ「おはよう・・・」と少し掠れた声で小さく返してくる。
「これ・・・カカシが掛けてくれたの?」
毛布を軽く摘み上げたはカカシの目をまっすぐと見つめ訊く。
「そーだよ。他に誰が居るの?」
相変わらずやる気の無いヘニョヘニョとした雰囲気でカカシは寝ぼけたように言うと欠伸をひとつ。
「ふぅ〜ん。アリガトッv」
ニッコリと至極の笑みと言える表情を見せたにカカシは一瞬目を丸くする。
「だ・け・どvアンタの寝てる位置!!すっげー不愉快!」
笑顔のままでドスの効いた声をさせるに冗談めかして
「えへ〜vでも、。俺が添い寝した時、キュッって俺の手握ってくれて可愛かっ・・・・」
『たんだからv』の言葉はの睨みによって遮られた。
寝ている間の事は責任取れないからなぁ〜・・・
はそう諦めると一応、自分からしてしまった行動なのでそれ以上を聞くのも耐えかね、カカシを責めるのも止めておいた。

 二人揃って転寝をしていた所為で、二人はとても遅い夕食をする羽目になった。
「そういえばさ。何時から雨降ってんの?」
その前に自分は何時寝たんだろう・・・と思いつつも外に目をやり訊く。
「ん〜。起きるちょっと前っぽいね。・・・なんで?」
カカシが箸を口にくわえながら曖昧な返事を返す。
「雨・・・嫌いだから・・・。雨降ってると夢見心地とか悪いのよねぇ〜」
(嫌なことしか思い出さないし・・・。ま、今日はそれ程では無かったけどさ)
と、心の中で色々と付け足しと自分への弁解を踏まえる。
「ふぅ〜ん・・・俺は結構好きだけどね。」
「・・・?どうして。」
「だって、と会えたのって雨の日じゃないv」
「あ・・・っそ・・・。」
聞くんじゃなかった。と溜息をつき黙々と飯を食う。
(確かに、カカシと会えたのはいい事だったけど・・・)
雨の日で良かった事と言ったらそれだけだ。
あとは、嫌な事しか思い出さない。
虐待に天気は関係なかったが、雨の日。というものはそれだけで印象に残ってしまうから厄介だ。
雨上がりの綺麗な虹も、それを映した水溜りも、雨を浴びて生き生きとし、輝いている草花も。
全ての哀れさを引き立ててくれている様にしか思えず、そうゆうもの全てが憎らしかった。
雨も雨上がりも嫌い。
晴天も、自分の無力さを引き立てるだけの道具だった。
「つまり私は何も好きじゃ無いんじゃない・・・」
ポツリと呟いたその言葉をカカシは聞き逃したのか、それとも流したのか・・・。
それに対して何も言わず、只、をジッ・・・と見つめていた。

その日の夜。
はまた夢を見た。
やはり、遠くで雨音が響いている。
激しく。
強く。
胸を締め付けてくる。
その場は暗闇。
自分だけが見えている。
只、先程の夢と違うのは自分を占めているものが『恐怖』だと言う事だ。
「ちょっと・・・キツイかも・・・」
苦しそうにそう吐く。
この感覚は家を出たあの日に似ている。
雨が降り、憂鬱に窓の外を眺めていた。
顔も思い出したくない使用人。
部屋をノックする音。
あの人が冷たい目をしてる。
少し笑って、近づいてくる。
嫌だ。怖い。恐い。助けて。タスケテッ・・・。

家から逃げて、走って、走って・・・
雨の中、人を掻き分けて。
逃げて、逃げて、逃げて・・・・
気付けば疲れ果ててもう走れなくなっていて・・・
ハヤテ先生とカカシに声を掛けられた。

その光景がまるで走馬灯を見るように頭の中をぐるぐる回る。

突如、吐き気に襲われて、咽返りながら飛び起きた。

「・・・・っ。ぅくっ。」
目からは恐怖で涙が溢れて止まらなくなっていた。
年に何度も来る大雨。
その中で2,3度あの日と重なる大雨が降る。
そんな時、自分はどうやって立ち直っていたのだろう。と、思い返すが思い出せない。
全てを恐怖で埋め尽くされ、何も覚えていないのだろうか・・・?
ふと時計を見ると夜中の1時半過ぎ。
もしかしたら、カカシが起きていたりして・・・とカーテンを開け、カカシの部屋を窓越しに覗くと、部屋から薄暗いオレンジ色の光が漏れていた。
「起きてる・・・?」
初めてこんな日に頼りたいと思った。
(認めちゃっても良いんじゃないだろうか?)
そう思い始めているのだろう。とは思った。
は窓を開け、少し身を乗り出す。
軽く備え付けられた雨に濡れ、滑る手すりをしっかりと持ち、震える手で自分を支える。
コンコン・・・弱々しくカカシの部屋の窓をノックする。
反応が無いので、もう一度。今度は先ほどよりも強くノックする。
そして、しばらく待つ。
少しだが、身体に雨があたり濡れる腕。
寒さを感じる。
「カカシ・・・」
小さく呟くのと同時にカカシの部屋のカーテンが開き、戸がガラガラと音を立てて開かれる。
「どうしたの?」
驚きを隠せない表情で訪ねるカカシに一言「そっち行く・・・」と呟いたは窓を閉め、鍵を掛け、カーテンを閉めた。
「ちょ・・・おい?」
カカシはそう言うと窓を閉め、玄関口へと向かう。
扉を開けるとは俯いたままでカカシの服を軽く握る。
「どーしたの・・・?」
カカシが困った顔で聞くと、は弱々しく
「アンタ・・・言ったよね?『俺の前で強がらなくて良いよ。』って・・・」
と訊く。
再び込み上がってきた涙を腕で拭いながらは言う。
「もう・・・独りで・・・耐えてるの嫌なの・・・。傍に居てっ・・・。」
と必死に声を絞り出した。
カカシはポンポンと慰めるように背中を叩きヒョイッとを抱き上げた。
「今日は一緒に寝よっか・・・v」
ニコッと優しい笑みを見せ、カカシはを抱えたまま自分の布団の中に潜り込む。
カカシは、が小さく頷くのを見ると包み込むように抱いてやる。
は必死に声を押し殺すようにして泣いていた。
カカシはそんなの背中を優しく擦って
「だーい丈夫だよv俺が何時でも傍にいてあげるから。」
と囁く。
「嘘つく大人は嫌い。」
は呟く。
「あのねぇ・・・」
カカシは状態を少し起こし、呆れ顔での顔を覗く。
「だから、『何時でも』って言うのは撤回して・・・。守ってくれなかった時寂しい・・・」
「あー・・・うん。」
意外と素直に言ってくるに戸惑いつつもカカシはその言葉を撤回しなかった。
「守れない約束なんていらない・・・」
そう言う
「守れない約束じゃないよ。守りたい約束v」
と、自分へ言い聞かせるかのごとく言う。
「なんか・・・卑怯な言い逃れみたい・・・」
はそう言うと、落ち着いたのか小さく笑った。
(はぁ・・・こんな素直な弱い抱えてると理性ふっとびそう・・・)
カカシは苦笑し、零れ落ちた涙を人差し指で拭ってやった。
「あのね・・・。私、思ったの・・・。私にとってカカシって・・・何物にも変え難い絶対的な存在なんだな〜って・・・
だからね・・・私の前から消えないでね・・・・」
はそう言うとすぐに、泣きつかれたのか寝てしまった。
「絶対的・・・な存在ね。」
カカシは苦笑し、規則正しい寝息を立てる眠り姫の髪を撫でる。
「ごめーんね。絶対的な存在がこんな男で・・・」
カカシは自嘲気味に笑うと触れるだけのキスをした。
(ま、これぐらいは許してね〜・・・)
カカシは小さく自分への呆れの溜息をつくと、を胸に抱えながら眠った。


― 朝 ―

う〜〜〜。昨日は最悪。
精神的に弱ってたとは言え早まった事したかも・・・
は着替えの為に一旦自分の家に戻っていた。

「カカシ〜〜〜。昨日私、何か変な事言った〜?」
恐怖で混乱した頭とその後の安著感。そして、それによって生まれた睡魔に、の記憶は軽く吹っ飛んでいた。
さながら飲んだ暮れた次の日。という感じだ。
「別に〜。」
カカシはサラリと嘘を言うと黙々と朝食をとる。
「(嘘っぽいし・・・)・・・今日も雨だね・・・」
窓の外を見てポツリと呟く。
「そうだねぇ〜。もうじき梅雨だしねぇ〜・・・。」
「・・・嫌だなぁ〜」
表情からしてもその心情を物語っている。
「あのさぁ、・・・」
「・・・ん?」
「雨。嫌だ。って決め込んでるから嫌なんだと思うよ?」
「?」
「確かに、嫌な事しか思い出せないけどさ。良い思い出を作るとか、雨の時の良さとかをさ・・・探せばきっと良いとこ見つかるだろうし・・・探してみなよ?そしたらきっと寂しさも減るんじゃない?」
ニッコリと笑顔で意外な事をサラリと言ったカカシに驚き、少しクサイな・・・と思わず照れる。
「そう簡単に見つかれば苦労しないだろ・・・」
が軽く否定すると、カカシは笑顔のままで
「雨の時、俺が傍に居れば自ずと幸せになれるでしょv」
と、自信たっぷりに言う。
は(嬉しいかも・・・)と、思いつつもやっぱり口から出るのは皮肉だけで
「自分を過大評価し過ぎなんじゃない?」
と冷たい言葉を放つのだった。
























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