は朝から見る人全てが近づくことが出来ないほどに怒気のオーラを放っていた。 その理由を見たわけではないが理解し呆れているハヤテと事を起こした張本人であるにも関わらずシレッとした態度でいるカカシ。 原因とその態度が気に喰わなくて更に苛々を溜め込む。 事の発端は昨夜の事・・・ いつもと変わらずカカシの玩具と化していたは諦め半分であしらっていた。 と、言うより朝からずっと風呂に入った時意外をカカシとハヤテと過ごしている。 ハヤテはいいが、カカシが問題。 旅館へ着いた当初に素直に「有難う」と言ってしまった所為でカカシの周りから見ればセクハラ同然の行為にほとほと付き合わされるハメになっていたので些か疲れているのだ。 ハヤテに助けを求めてもが一人であしらえる程度なのを知っているし、そんな時のカカシを止めるのはとても面倒臭いという事で苦笑を漏らし一人夜の散歩とその場を退散した。 部屋で二人きりになったはとりあえず腰に手を回しニコニコと馬鹿みたいに笑っているカカシの腹に一発喰らわす。 「あー・・・もぅ、さっきから何よ?」 甘え盛りのガキみたいなカカシを見下ろし、面倒臭そうに訊いて見るとニコッとカカシは笑う。 そして、「おいでおいで」と自分の膝を叩いて座れと促す。 「だから、何よ?」 その誘いには乗らずカカシの目の前にしゃがみ込んで視線を合わせ睨むように訊くとカカシは少し寂しそうな顔をしての腕を引っ張った。 「、今日楽しかった?」 唐突な質問に少し戸惑いながらもはコクリと頷く。 「そう、良かったv連れて来た甲斐があったねv」 嬉しそうにカカシが言うからその笑顔に思わず頬が赤くなる。 「カカシは・・・?カカシは楽しかったの?」 が問うと 「が居ればどこでも楽しいのv」 という返事が返って来る。 嬉しいけどその答えは言わずに心のうちで閉まっていて欲しいとは思う。 (大体恥ずかしいのよ・・・) そうゆう事に慣れていないから余計に嫌だ。 カカシのそうゆう台詞は慣れているけど本気か冗談か分からない時がある。 (嫌な慣れ方・・・) が小さく溜息をついたのと同時にカカシが掴んでいたの腕をクイッと引いてを引き寄せる。 (ん?)と思った時にはカカシはの腰に手を据えて唇を合わせてくる。 (ホント抜け目無い・・・) は些か無理な姿勢を直したくて開いているもう片方の手でカカシの肩に手をやりグッと力を込める。 カカシはニッと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。 「何?」 (何?はこっちだよ・・・) はペシッと軽くカカシの頭を叩いて 「最近・・・カカシがおかしいって感じるときがある・・・何で?」 と訊いた。 いつも突然なその行動理念への仕返しのつもりで。 しかしそれはカカシの中で大きく響く事になってしまった。 そんな事は気付くはずもない。 もカカシも感じていた2人の間にある別の壁がどうゆう物かをは知らない。 それを知っているのはカカシとハヤテだけ。 そして、その壁があるからこそ壊れ始めた歯車を感じ取っていたのもカカシとハヤテだけ。 全てを背負ってしまったのはカカシだけ・・・ 少しずつのズレが大きく響いたのはカカシだけ。 それを訊く事を許されていないと感じているには気付けるはずも無かった。 「勘違いでしょ・・・」 そう呟くように言うとカカシはを押し倒す。 「あのねぇ・・・質問には答えない。何も言わない・・・何がしたいんだか分かんないよ?」 先程の呟きなど聞こえるはずも無く、只カカシの事が知りたいと自分勝手でも『どうして気付いてくれないんだろう?』と焦ってしまうカカシ。 互いに我慢して訊く事をせず、知ることを恐れて・・・ 「・・・つッ!」 押し付けるような強引なキスには何故か冷静になり「どうするか・・・」と考えていた。 取り合えず両腕意外は身動きが取れる。 は両足をカカシの腹にあてカカシの体を押して無理矢理に放した。 「も・・・止めてよ!大嫌い〜〜!!!」 確かに冗談。 確かにその場限りの言葉。 だけど、カカシを黙らせるには丁度良かった。 「完全に壊れちゃいましたね・・・歯車が噛み合っていない・・・」 一番この状況を理解しているのはハヤテだけかも知れなかった。 カカシは至極当然『いつも通り』でいると思っているのだ。 でも、それにはズレが生じている。 あの時と同じ。 にのめり込めばのめり込むほど全てにズレが生じてくる。 『好きだから近づきたい』そう思っているにも関わらず『相手を思いやる余裕』を完全に失ってしまったカカシにはもう、自分で自分の感情を押さえきれなくなってきていた。 「2度もこんな状況を見るとは思いませんでしたよ・・・ゴホッ。自分で何とかしなさいね」 今は分からなくてもその内自分でも気づくだろう。 だからハヤテには忠告してやる事しか出来なかった。 あとは、にそれとなく伝えてあげる事。 そうじゃないとこのズレは必要以上に膨らんでしまう事をハヤテは感づいていた。 ------------------------------------ なんとか無事、旅行を終え帰宅したは疲れきった顔をしていた。 そんな所を呼び出すのはどうか・・・とも思ったが早い方が良いとに声を掛けていた。 「あの・・・ハヤテ先生?」 まさか向こうから言ってくるとは思いもしなかったは些か戸惑っている事を表情から伺える。 「スイマセン・・・ただでさえカカシさんの所為で疲れているのに呼び出してしまって・・・」 本当に申し訳無さそうに、しかし的を得たキツイ事を言い放つハヤテに苦笑しつつもは首を横に振る。 「いいですよ・・・別に。ハヤテ先生からアイツについて言おうとするなんてよっぽどの事なんですよね?」 確認するが如く訊くに今度はハヤテが困ったような苦笑を漏らす。 「実際・・・あの事に関して言う気は無いんです。私は言った方が良いとは思うのですが・・・こればっかりはどうしようもないですからね・・・」 ゴホゴホッと関を交えて言うハヤテの顔はいつもより神妙で、それでいて眼が真剣さを物語っていては妙な緊張感を覚えた。 (聞くのが怖い・・・) 真剣にそう思っていた。 だけど、きっとこれから逃げてしまえば後々取り返しがつかなくなりそうでそれも怖い。 どちらにしろ知る真実なら襲いより早いほうが良い。 でも、心の準備は全くと言っていいほど出来ていないのだ。 ハヤテはゆっくりと重たい口を開く。 それさえにも怯えるようにキュッと手を固く握ったは小さく深呼吸をした。 「カカシさんは・・・一度精神的に壊れてしまってるんですよ。」 「・・・え?」 の驚いた顔に寂しげな表情を一瞬見せると、ハヤテはまた真剣さを瞳に宿す。 「と言っても本人は気付いてないと思います・・・。 だけど、私は見ているんです。彼が自分で自分を追い詰めてどうすることも出来なくて壊れていく様を・・・見ているんです。」 はどうとも答えることが出来なくてハヤテの言葉を待つしか出来なかった。 「今の状態がその時とよく似ている・・・カカシさんは馬鹿ですからね。知らないんですよ。」 「・・・・何を?」 怖い事を訊く・・・と自分でもハッキリ理解していた。 だけど、訊かずに入られなかったはハヤテの言葉を急かすように相槌を打つ。 「助けを求めて良い状況を・・・です。 だからあの時も自分で全てを乱して、荒らして、分からなくなってしまった・・・ あの人は・・・ずっと一人で生きてきたようなもんですから『頼り方』を知らない。 きっと、今まで本当の意味で人に頼った事も信じた事も無いですよ。 だから言わない・・・過去も、嫌な事も、全て自分の中で隠してしまって外へ出さないんです。 自分は信用させようとするくせに、全てを知ろうとするくせに・・・卑怯なんですよ。」 ここまで一気にハヤテには珍しく一つも咳をせず言い切った事での中に重く圧し掛かる。 「カカシさんはまた、同じ道を繰り返そうとしている・・・しかし、それに立ち向かおうともしている・・・」 「一人で・・・」 は確信を持っているのか寂しそうに呟いた。 「一人で出来ると思いますか?」 ハヤテもまた、寂しそうに訊く。 「無理・・・小さな事でもそうだけど・・・支えが無くちゃ生きていけないよ・・・何かに立ち向かうなら・・・支えが必要だよ・・・一人じゃ何も出来ない・・・だって、そう教えたのはカカシだよ? 何で自分で分からないの?」 答えることが容易い事ではないのは百も承知。 きっと誰に聞いてもその答えなんて出てこない。 「そうゆう人なんですよ・・・」 そうとしか言えないではないか。 「・・・ハヤテさん・・・私は・・・カカシを支えられる?」 そう望んだからハヤテはに言ったのだ。 「出来る限りは手伝いますよ・・・ゴホッ。だから、普通に接しつつ傍から離れないでやって下さいね」 「・・・うん。」 無理な注文だと分かっていながら言うハヤテ。 は難しい事だと分かっているけど頷かずにはいられなかった。 「私は・・・助けられた分は必ずカカシを助けるわ!」 自信は無い。 だけど、支えられる人間でありたい。 そう思うからこそ出た言葉に偽りは無い。 ― 事は始まったばかりである |