「カカシ、カカシ!最近ずっとボーっとしてるけどそんなにやる事無いの?」

夏休み最後の一週間。
教科の先生じゃない分忙しかったり暇だったりは極端なのかと思ったがカカシは滅多に出かける事無くずっとを構っているか、なにやら真剣に雑誌を読んでいたかだったりする。

「やる事・・・は山ほど合ったけど終ってる」

その言葉に呆気に取られる。
いつ終らせたんだよ・・・なんてツッコんでやりたいぐらいにそんな風を見せなかったカカシをジーッと見つめてしまう。
「何?」
カカシがキョトンとした顔で言うからも少し呆れてしまって「ま、いっか・・・」と疑問を無理矢理奥に詰め込む。

は旅行から帰って来たあの日からハヤテに言われた事をずっと念頭に置いていた。
それじゃあ何もならない事ぐらい分かっていたけれどもそう思えば思うほど気にしてしまうもので、はハッキリ言って戸惑っていた。
一応それがカカシにばれないようにと虚勢を張っているから何を言われたかをカカシは知らないだろうが、抜け目の無いこの男の事だ。何も知らないかどうかなんて分からない。
「な〜にか言いたい事あるのかな〜?ん〜?」
そう言いながらカカシは机を挟んでの顎を人差し指でクイッと上げて視線を合わせる。
「別に何も言いたいことは・・・・」
そうは言うが目が全てを物語ってしまうようでカカシの吸い込まれるような目をしっかりと見て言う事が出来ない。
それでも、目を逸らしてしまえば全てが嘘だ。と、何かを隠している。と言ってしまうようなものだから目を逸らせない。
しっかり、見て居たくない瞳を見据えていなくてはならない。
「・・・・・」
カカシは暫く無言での瞳の奥を覗き込んでいた。
何を考えているんだか、心の中の葛藤をそのまま映してしまう揺らいだ瞳をじっくりと・・・。
がハヤテに呼び出されたあの日、カカシは「何話してたの?」と直に聞いていた。のだが、やっぱりサラリッと交わされていたのだった。
(ならば、に・・・)と思い、聞く気満々だったのだが、どうやらこちらも答える気は無いらしい。
はぁ。と大きく溜息をついたカカシはスッと指を放して机の上に突っ伏した形でを見上げる。
その眼が何かを訴えているように見えて、は「うっ・・・」と口を紡ぐ。
(やっぱり自分を少しでも出さないと何も返っては来ない、か・・・)
カカシは深呼吸して決意を決めると
「今から3つの質問に答えてあげよう・・・」
「は?」
カカシの考えなど知る由もないにはこの唐突な言葉にただ呆気に取られるしかない。
「そのかわり答えられるものだけ!それに対しては1つの質問に答える事!OK?」
3つ言う代わりに1つ答えるというのはカカシの譲歩と今までの償いである。
と、は考えた。
その真意はカカシでも分からないだろうが大体そんなものだろう。
「ん〜・・・」
聞きたい事はいっぱいあるが、突然言われても何を聞いていいか分からなくなる。
しかも3つ。で、答えられるものだけ。である。
(あの事って何?なんて訊いても答えてくれる筈は無いし・・・)
「じゃあ・・・」
回りくどく訊いた方が色々とつながる部分もあるだろうか・・・?
「カカシの・・・左眼のその傷・・・ソレ、何で付いたの?」
普通なら答えない過去でもありそうなぐらい隠していたその傷。
しかし、の一言で包帯を取って普通に過ごすまでになったのだ。そう答えられないような事でもないだろう。と判断して聞いてみた。
「ん〜?この傷〜・・・?」
予期していたいくつかの質問とは異なるそれにカカシは初めから行き詰まる。
こんな駆け引きのような空間、どうして作ってしまったのだろう?と後悔してももう遅い。
「これはねぇ・・・自分で傷つけたのよ。色々あってね・・・」
(あれ?もしかして『あの事』に直接関わる事だった・・・?)はカカシの見せた寂しそうな笑みに一瞬息を飲む。
が、しかし、それは的外れだったようでカカシはいつものようにのんびりとした眼をに向けて
「小さい頃にね。馬鹿やって・・・大変だったよ?特に・・・」
そこで言葉を切ったカカシに新たな疑問が浮かぶ。
『特に』の次が重要な鍵を握っている。と、は確信していた。
しかし、それ以上を言うつもりは無いらしくカカシは中途半端なままその質問の答えを取りやめた。
(思ったよりやり難いな・・・過去のことを出されたら全てが脆く崩れるし・・・)
カカシはいつもより慎重に物事を口にしようと心がけた。
「カカシってさぁ、どこに家があるの?」
「・・・は?ココ。」
カカシは至極当然という表情で床を指で指しながら言う。
「違うっ!親が居る家!」
はわざとか?と思いながらも言い直す。
「・・・あぁ。なーいよ。家は・・・と、いうより勘当されてるから、俺。」
「・・・イヤ、そんな事が聞きたいんじゃなくて・・・場所だから・・・。」
思い掛けない答えに戸惑いつつも平静を保っていようと言葉を加える。
(イヤだな・・・知りたいと思ってもこうゆう知り方は好きじゃない・・・)
「・・・電車で2駅内の範囲にある。」
「え・・・?」
勘当されている。つまりその家から追い出されたか逃げたかで一人で暮らしているんだろうにそんなに近くに住む物なのだろうか?とは考える。
(あー・・でも、あの女医さんはカカシの過去を知ってたしそれなら・・・・)
「この前カカシが紹介したあの女医さん・・・あの人とはどうゆう関係?」
これさえ聞いてしまえば何かが繋がるような気がする。とは人差し指を立て聞いた。
「は・・・?アイツ?ただの同僚だよ?」
『思い過ごし?』はそう思いながらも「何の?」と続けた。
しかし、カカシは「ダーメ、質問3つ終わり」と言ってそれは受け付けてくれなかった。
は無駄な質問をしたか・・・?と少し後悔したが実はそうでもなかった。
その話題が上がった時、カカシは一瞬体を強張らせていた。
まさか、そんな的を当てて来るとは思っても見なかったのだ。
しかし、『関係』を聞かれたのでカカシはホッと胸を撫で下ろしていた。
もしも『どこで知り合ったか?』なんて聞かれていればそれは答えることが出来なくなってしまう。
(油断ならないかも・・・)
カカシははぁ・・・と小さく溜息を吐いて自分の気持ちを仕切りなおした。
「じゃあ、・・・答えてね。」
「うん・・・」
「ハヤテに・・・何を言われたの?」
「・・・・」
やっぱりそう来たか・・・とは心の中で呟いた。
きっと自分がした質問に対しカカシは嘘は言っていない。
ならば、自分も本当の事を返すべきだ。
しかしも馬鹿ではない。そんな核心をカカシに聞かせるわけなく最後のハヤテの一言を口にした。
「頑張ってって・・・言われた」
「は?」
「カカシなんかに付き纏われて気苦労が耐えないだろうけど頑張って乗り越えてって下さいって☆」
「ちょっと待て・・・それホントに・・・」
「本当だよ。まぁ、カカシなんかに〜ってのは私なりの解釈だけど」
「あ、っそ・・・」
カカシは完璧に信用した訳では無さそうだがまぁ、大体そんなもんなのだろうと理解した。
簡単に言えばそうゆう事。だけど実際はそんな軽い物じゃない。
もっと、重たくて冷たいものだ。

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夏休みが終わり、2学期が始まった。
2学期はかなり忙しく、体育祭だ文化祭だと学級代表であるは慌しく過ごしていた。
「たーいへんだねぇ、委員長と実行委員の掛け持ち・・・それプラス先生からの御用達でしょ?頑張ってね〜v」
ヒラヒラと保健室の窓から愉快そうに手をヒラヒラと振るカカシにダンボールいっぱい荷物を抱えたは睨む。
「そう思うなら手伝えよっ!!」
そう言うと
「嫌だよ・・・自分で受けた仕事は自分でやりこなして行きなさい。でないと立派な大人になれないよ〜?」
随分と立派な事を言う・・・とは睨みを一層増し
「じゃあそうやって生きて来なかった人間の失敗作のいい例よね、カカシ先生は・・・」
と皮肉を漏らした。
「そうかもね〜」
カカシはそれを物ともせずサラリと流す。
面白みも何ともない。ただ苛々が増すばかりである。
「って・・・ぁあっ!!」
ガシャンッと大きな音をたててダンボールがひっくり返る。
ちょっとした反動でバランスを崩してしまったのだ。
しばらく散らばった中身を見渡して小さく溜息を吐くとカラのダンボール箱を起こして散らばった物をひとつひとつ拾って入れる。
カカシは未だ窓枠に手をついてクスクスと笑っている。
「っとに・・・何がおかしい!っていうか手伝え!」
真っ赤な顔してそんな怒声、効果ないよなぁ・・・と思いつつも言わずにはいられない。
意識しているからか、意識していなくてもなのか、カカシの態度はやはり以前とは異なっていた。

腹の立つ・・・それはいつもと同じ。
だけどその怒りは悔しさから来ている。これだけは違う。

ナンデ独リデ貯メ込ムノヨッ!!

そうやって過ごしていて楽しい事なんて一つもない。
回りにもたくさんお迷惑をかけてくる。

ひょいっとカカシは散らばっているプリントを拾う。
自分の思考の中に居る間にどうやらカカシは外へと出てきていた。
・・・」
ふいに呼ばれた自分の名前。
どうして悲しそうな声音なのだろう?とは思う。
掠める位に触れた唇に余計物悲しさが襲い掛かる。
「学校でんな事していいと思ってんの?」
の問いに誰にも見られていなければそれでいいの。と答えるカカシ。
「―・・・見られてない?」
「ん・・・?」
「見られたんじゃないの・・・?アレは・・・」
は平然とした表情で保健室の方を指す。
「へ・・・?」
カカシが振り返るとそこには訝しげな表情を浮かべるイルカの姿
(よりによってこの男かよ・・・)という顔を見せるカカシは見なくても容易に想像できた。
「と、いうより分からないでしょ。あの角度じゃ・・・」
カカシがポツリと言ったのを聞いたときには背筋がゾクリとした。
(この男・・・ッ!!)
でもここで反論するのはイルカの『もしかしたら・・・』を確証させてしまう。
「カカシ先生、手伝って下さって有難うございました。でも・・・最後の一言は余計ですよ。夕飯抜きですからね。」
ニッコリと適当な言葉を並べてイルカに一礼するとはその場を去る。
(イルカ先生にバレるなんてあってはならない事だったのに・・・)
イルカはカカシの思考に一向に理解を見せようとしたことはない。
というより理解したくないのだ。
その気持ちは解らなくもない。
だから何も言わない。
無理に理解してもらおうとは思わなかった。
なのに、カカシはそうゆう事を考えない。
(やり辛い・・・何もかも全てが・・・)
「こんなの一人で耐えろってか・・・あの馬鹿。最低っ!」
苛立ちは全てカカシの所為。
悔しいのもカカシの所為。

じゃあ、カカシは何の所為でそうなったの・・・?

まだ、知ることは出来ないのだろうか・・・とはグッと涙を堪えていた。
























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